
山下達郎の使用ギター|1978年製テレキャスターと「SPARKLE」のライン録り【2026年版】
サウンドマニア編集部/楽器の購入ガイドや基礎知識を発信するサウンドマニア編集部です。ピアノ・ギターをはじめとした楽器選…
山下達郎のメインギターは、1978年製のFender Telecasterです。ブラウンのボディにローズウッド指板を備えたこの1本を、1980年に友人から5万円で譲り受けました。そして「SPARKLE」のカッティングは、アンプを鳴らして録ったものではありません。DIを通してミキシングコンソールへ直接送る、ライン録りです。本記事では、本人インタビューとツアー現場の実機取材にもとづいて、ギター本体・アコースティック・アンプ・ペダルボード・録音方法までを整理します。
山下達郎の使用機材一覧
最初に全体像を示します。ギターは、ギター・マガジンが2022年のツアー・リハーサル現場で撮影した8本が基準です。アンプ・ライン系・ペダルボードも同じ取材によるものです。
カテゴリ | モデル | 主な用途 |
|---|---|---|
エレキギター(メイン) | Fender Telecaster(1978年製・ブラウン) | ライブ・レコーディングの主力 |
エレキギター | Fender Stratocaster(1957年ボディ/1970年ネック・ハードテイル) | 「LOVE TALKIN'(Honey It's You)」「BOMBER」の録音など(2022年ツアーでは不使用) |
エレアコ | Gibson Chet Atkins SST(1991年製) | 2022年ツアーのメイン・エレアコ |
エレアコ | Gibson Chet Atkins SST(1990年製) | 半音下げチューニング用 |
エレアコ | Gibson Chet Atkins SST(1993年製) | 以前のメイン。2022年ツアーでは不使用 |
アコースティックギター | Martin D-28(1970年前後と推定) | レコーディング/アコースティック・ツアー(2022年ツアーでは不使用) |
アコースティックギター | Guild D-50 NT(1984年製) | ボディが割れた1967年製の代わりに用意された個体(2022年ツアーでは不使用) |
アコースティックギター | Gibson J-50(1968年製と推定) | レコーディング/アコースティック・ライブ専用 |
アンプ | SHINOS Luck 6V Tatsuro Yamashita Model | メイン・アンプ(2010年〜/2022年取材時点) |
ライン出力用プリアンプ | Chameleon Labs 7602 Toneflake Custom | ステージのライン出力の中核 |
エフェクター | BOSS CE-3(2台)/Tech 21 SansAmp GT2 | コーラスと歪み |
スイッチャー・電源 | Custom Audio Japan MLS-2/Free The Tone PT-3D | ライン/アンプの切り替えと電源供給 |
構成の軸は、1978年製テレキャスターとライン出力です。2022年の取材時点では、アンプはステージ上に置かれているものの、エレキの音の9割近くはプリアンプを介してライン出力されています。
メインギターは1978年製Fender Telecaster──1980年に5万円で手に入れた1本
フェンダーの公式オンラインメディアFenderNewsが2025年12月に公開した本人インタビューで、山下達郎はメインのテレキャスターについて「1978年製で、当時新品で買ったやつをそのままの状態で売ってもらったんです」と語っています。入手は1980年、友人から5万円。2025年のインタビューでも、当時と同じ楽器を使い続けていることを本人が語っています。
サブギターからメインへ昇格するまで
手に入れた当初、このテレキャスターはサブギターでした。転機について本人はこう説明しています。ちょうど同じ頃にギターのメンテナンスをしてくれる人物と知り合い、ナットやブリッジに手を入れてもらったところ「ものすごく良くなってね。いきなり鳴りだしたんですよ」。ギター・マガジンの2020年の記事は、1年ほど弾いたあたりから鳴るようになり、81年頃まで使っていたブロンドの個体を押しのけてメインに昇格した、と記しています。
昇格の時期について、ギター・マガジンの2022年の記事は入手の翌年あたりからメインの座についたとし、2020年の記事は82年から40年近く達郎サウンドを支えてきたとしています。いずれにせよ1981年から1982年にかけての時期に、この個体が絶対的なメインの座についたことになります。
同じ話には続きがあります。ベースの伊藤広規のジャズベースも同様に手を入れてすごく良くなり、1981年に手に入れたその個体を今でも使っている、と山下は2025年のインタビューで語っています。だからこそ、と本人は続けます。「いまライブで『SPARKLE』をやっても、当時と同じ音がする。二人とも当時と同じ楽器なので」。
1978年製テレキャスターの仕様
項目 | 内容 |
|---|---|
年式 | 1978年製(本人談)。ギター・マガジンは1978〜80年製と幅を持たせて記載 |
ボディ材 | ホワイト・アッシュ |
ネック材 | メイプル |
指板 | ローズウッド |
指板R | 本人いわく「緩い」。フラットに近い |
カラー | ブラウン。フェンダーでの正式なカラー名はウォルナット |
重量 | 本人談「こんな重いテレキャス、他に知らない」 |
フロント・ピックアップ | ギター・テックの篠原勝(SHINOS)が手巻きで製作したものに交換済み |
ピックアップ・セレクター | ノブを外してある |
コントロール | ボリューム・トーンともに常時フル |
弦 | .011もしくは.010からのセット(2020年時点) |
入手 | 1980年、友人から5万円 |
カラーについて本人は「この色は珍しいんですけど、最初からこの色ですね」と述べています。ギター・マガジンも、このブラウンはオリジナル塗装の可能性が高いとみています。
「残ってるのは木だけ」──交換され続けてきた部品
この個体の状態は、本人の言葉がそのまま表しています。「今ではもう、残ってるのは木だけなんですよ。ペグからピックアップから、全部取り換えています」。オリジナルパーツがどれだけ残っているか、という尺度はもはや成り立ちません。
それでも「音は当時とまったく変わらない」と言い切ります。フレット交換についても「ヘタるから替えるということで、音を変えたいからというわけではなくてね」と、目的が明確です。
フロント・ピックアップの交換には具体的な理由があります。ギター・マガジンによれば、この個体はフロントとリアのピックアップがどちらも同じ磁極になっていました。テレキャスターには両者を逆磁極にしてミックス時にハムをキャンセルする個体もありますが、本器はそうではなかった。そこで発生していたノイズを取り除くため、篠原自身が新しいピックアップを製作して載せ替えています。交換後の音の違いについて、篠原は「若干変わりはしますが、気になるほどではない」と話しています。
セレクターのノブを外し、リア単独のポジションは使わない
ピックアップの交換とは別に、演奏上の理由で手を加えているのが、ピックアップ・セレクターのノブを外していることです。理由はシンプルで、カッティングのストロークが強く、手が当たってセレクターが動いてしまうから。ギター・マガジンの2020年の記事と、2025年の本人インタビューが同じ説明をしています。
そして操作系についての本人の説明は、これ以上ないほど簡潔です。
ボリュームもトーンも使いません。常にフルのままです。だから使いやすいですよ、全部同じでいいんですから。曲によって、ピックアップをフロントかセンター位置に替えるだけですね。リアを使ったことは人生で一度もないです。
ここで言う「リア」は、セレクターのリア(ブリッジ側)単独のポジションのことです。テレキャスターのセンターはフロントとリアの両方のピックアップが鳴るミックス・ポジションなので、リア・ピックアップそのものは使われています。ギター・マガジンの取材でも、基本はミックス・ポジションでの使用と記録されており、本人の証言と一致します。本人が好きだと語るのは、センターポジション特有の「シャリーンという」音です。
テレキャスターにたどり着くまで──水浸しと盗難を経た機材遍歴
1978年製にたどり着くまでに、いくつものテレキャスターを乗り継いできました。この経緯は本人インタビューで詳しく語られました。
時期 | 楽器と出来事 |
|---|---|
中学 | ブラスバンドでドラム。お年玉でガットギターを購入し、遊びで弾いていた |
高校 | 楽器店で他社製ギターが32万円、テレキャスターは17万円。当時のサラリーマンの初任給は5万円ほど |
シュガー・ベイブ期 | 日本製ギターにアメリカ製ピックアップを載せて使用。その後、伊藤銀次が持っていたテレキャスターを譲り受ける。色を剥がしてあり、ビグスビーのビブラート付き |
1976年 | 『CIRCUS TOWN』録音でニューヨークへ行った際に600ドルほどのテレキャスターを購入。のちにマネージャーの車のトランクで雨漏りに遭い水浸しに |
その後 | ニューヨークで2000ドルほどのテレキャスターを購入。スタジオに置いていたところ盗難に遭う |
1980年 | 『RIDE ON TIME』のレコーディングは、バンドメンバーから借りたテレキャスターで演奏 |
1980年 | ブラウンの1978年製を友人から5万円で購入。当初はサブギター |
テレキャスターを選んだ理由について、ギター・マガジンの2020年の記事は、憧れのギタリストであるスティーヴ・クロッパーの影響を挙げています。2025年のインタビューでも、本人は、クロッパーやレジー・ヤングら影響を受けてきたギタリストたちの影響かという問いに「そうです」と答えています。ただ、そのすぐ後に付け加えたのは「でも何より、テレキャスは安かったから」でした。
サブのエレクトリックギター
Fender Stratocaster(1957年ボディ/1970年ネック)
ギター・マガジンが「実はテレと双璧をなす重要な1本」と位置づけるのが、このハードテイル・ストラトキャスターです。成り立ちが変わっていて、ニューヨークで1957年製のボディのみを300ドルで購入し、そこにギタリストの青山徹が持っていた1970年製のローズウッド指板ネックを取り付けたもの。本人が以前「無理矢理くっつけたんで若干ねじれている」と語ったとおり、取材時もジョイント・プレートがかなり湾曲していたと記録されています。
ピックアップはもともと1970年代後期のものが載っていましたが、交換されている可能性が高いと篠原勝はみています。「LOVE TALKIN'(Honey It's You)」や「BOMBER」の録音などで使われた1本です。2022年のツアーでは使用されていません。
リード用の1974〜75年製テレキャスター
ギター・マガジンの2020年の記事によれば、メインの1978年製はテンションが少々強いようで、チョーキングした際に音がつまるポイントもあり、リードギターを弾くには適していないそうです。同記事の時点では、ツアーのリード用として別のテレキャスターが用意されていました。1974〜75年製、メイプル・ワンピースネック、アッシュ・ボディ、ナチュラル塗装。こちらは一般的な弦高に調整されているとのことです。なお、2022年のツアー・リハーサルで撮影された8本には、この個体は含まれていません。
エレアコとアコースティックギター
Gibson Chet Atkins SST──ステージのメイン・エレアコ
山下達郎がステージでエレアコとして重宝しているのが、ギブソンのチェット・アトキンス・モデルです。ソリッド構造のエレアコの先駆けで、ギター・マガジンによればガット仕様が1982年、このスティール弦モデルが1987年に発売され、2006年に生産を終えています。
取材時に確認されたのは3本。それぞれ役割が分かれています。
年式 | 役割 | 特徴 |
|---|---|---|
1991年製 | 2022年ツアーのメイン | 取材時点で20年以上使用。ダミー・サウンドホール付近の木部がえぐれている。弦は.010〜.047。チューニングはレギュラー |
1990年製 | 半音下げチューニング用 | ヘッドが初期型。トップはスプルース、バックとネックはマホガニー、指板はエボニー。トーン・ノブは演奏中に動かないようテープで固定。弦は.012〜.053 |
1993年製 | 2022年ツアーでは不使用 | 星形インレイとダミーホールがないタイプ。コントロールがサイドに移動。ピックアップはオリジナル。以前はこれがメインだった |
スケールは3本とも648mmのレギュラースケールです。1991年製と1990年製は、内部のピエゾのバランスが悪いという理由で、マイク部分のみ新品に交換されています。ピックアップがオリジナルのままの1993年製について篠原勝は「達郎さんはダミー・ホールがない見た目がそんなに好きじゃないみたいですけど、つい最近まで状態はこれが一番良かった」と説明しています。なお撮影日には現場になかったものの、ダミーホールありの個体がもう1本サブ器として用意されていました。
Guild D-50 NT・Gibson J-50・Martin D-28
取材では、エレアコのほかにアコースティックギター3本も撮影されています。
ギター・マガジンが「山下の代表的なアコースティック・ギター」と呼ぶのがGuild D-50です。長年の相棒だった1967年製はボディが割れてしまい、取材時には1984年製が用意されていました。この1967年製はもともと岡林信康が所有していた個体です。チューニングはレギュラーで、撮影されたアコースティックギターのなかでは最もサイズが大きく、骨太な鳴りが持ち味とされます。
Gibson J-50は1968年製と推定される個体で、レコーディングとアコースティック・ライブの専用機です。ブリッジ・サドルはもともとの木製アジャスタブル・タイプから牛骨に、ペグはクルーソンからグローバーに交換済み。Guild D-50より小ぶりで、取り回しの良さが気に入っている点だと記されています。
Martin D-28は1970年前後と推定されるもので、半音下げチューニングで使われることが多い1本です。レコーディングやアコースティック・ツアーなどで使われます。
Guild D-50とMartin D-28には、いずれもサウンドホールにSkysonicのPro-1が装着されています。これはマグネティックピックアップ、コンタクトピエゾ、コンデンサーマイクの3種類をセットにしたものです。Martin D-28については、山下が弾く際はコンデンサーマイクの出力のみをやや絞り、ほかはすべてフルに設定しているとギター・マガジンが記録しています。
アンプとライン出力系──ステージの音を作っている2台
SHINOS Luck 6V Tatsuro Yamashita Model
2022年の取材時点で、2010年からメイン・アンプとして使われているのが、SHINOSの山下モデルです。一般発売されているLuck 6Vにリバーブとトレモロを増設し、さらに抵抗やコンデンサーの定数を調整して山下らしいサウンドにチューニングしたものです。
項目 | 内容 |
|---|---|
形態 | 40Wコンボ |
ベースモデル | SHINOS Luck 6V(一般発売モデル)にリバーブとトレモロを増設 |
プリ管 | ECC83×5、リバーブのドライブ用にECC81×1 |
パワー管 | 6V6×4 |
整流管 | GZ34×2 |
スピーカー | Celestion Classic Lead 80(12インチ)を、本人の希望で1発のみ搭載 |
音の傾向について、篠原勝(SHINOS/ギター・テック)は「ざっくり言うとフェンダーとVOXの中間のような音」と表現しています。スピーカーを1発のみにしているのは本人の希望によるものだと、ギター・マガジンは記しています。
Chameleon Labs 7602 Toneflake Custom
ステージでライン出力を担っているのがこちらです。ヴィンテージのNeveを模したマイクプリアンプを、国内のToneflakeがモディファイした個体。もともとレコーディングで愛用していたものを、2008年頃からライブにも導入しています。
ギター・マガジンによれば、上がエレキ用、下がアコギ用という使い分けで、アコギは100パーセントがライン、エレキも9割近くがこの機材を介してライン出力されています。EQはエレアコの低音を持ち上げるため、ローがやや上げめに設定されているとのことです。
ステージのギターサウンドを語るうえで重要な機材だと同誌が位置づけているのも、この比率があるからです。アンプはステージに立っているものの、エレキの信号の大半はこのプリアンプを通ってライン出力されていることになります。
ライブ用ペダルボード──「SPARKLE」以外はコーラスをかけっぱなし
足下は驚くほどシンプルです。2022年のツアー・リハーサル時点で並んでいたのは5台のみでした。
順 | 機材 | 役割 |
|---|---|---|
1 | Custom Audio Japan MLS-2 | ライン・セレクター |
2 | Tech 21 SansAmp GT2 | アンプ・シミュレーター(ソロなどで踏む歪み) |
3 | BOSS CE-3 | コーラス(エレキ用) |
4 | BOSS CE-3 | コーラス(アコギ用) |
5 | Free The Tone PT-3D | パワーサプライ |
接続順も記録されています。エレキはまずコーラスに入り、そこからライン・セレクターへ。セレクターのAからライン出力、BからSansAmp GT2を経てアンプへ向かいます。アコギはもう1台のコーラスを介してライン出力されます。
そして、ギター・マガジンが記録したセッティングがこれです。「SPARKLE」を弾く時以外、コーラスは2台ともかけっぱなし。本人は別のインタビューで「僕はエフェクターには興味がないんですけど」と語っていますが、興味がないことと使わないことは別だとわかります。
BOSS CE-3のセッティング値
BOSS CE-3は、ローランドの公式サポート情報によれば1982年から1992年まで生産されたコーラスで、コントロールはRate、Depth、Stereo Modeスイッチの3つです。
山下の2台は、いずれもSTEREO MODEを1に設定し、ドライ音とエフェクト音をモノラルで出力する定番のセッティング。ツマミの値も2台で共通しており、RATEが10時、DEPTHが11時です。
歪みはSansAmp GT2
ソロなどで踏む歪みに使われているのは、Tech 21のSansAmp GT2です。メーカー公式サイトによれば、1993年の登場以来、仕様が変わっていないアンプ・シミュレーターです。公式のオーナーズマニュアルには、AMPスイッチのTWEEDがフェンダー系、BRITISHがマーシャル系、CALIFORNIAがメサ/ブギー系にあたることが明記されています。MICスイッチはCLASSIC、CENTER、OFF-AXISの3種で、CLASSICは離れた位置からのマイキングに相当するとされています。
ハードロック的なサウンドも出せる1台ですが、山下のセッティングはDRIVEをかなり控えめにしたうえで、MICはCLASSIC、AMPはCALIFORNIAに固定。歪みの強さを調整するMODは曲によって切り替えているとのことです。
「SPARKLE」はライン録り──本人が語る録音方法
ここが本記事の核心です。「SPARKLE」のカッティングは、アンプを鳴らして録られたものではありません。
「SPARKLE」なんかは、DI(ダイレクトボックス)を通してるだけで、卓直(ミキシングコンソールに直接接続)とEQ(イコライザー)のみです。
スタジオでの録音方法を問われた本人の答えは「ライン直で録っています」、そして「ずっとそうです」でした。後編ではさらに踏み込んで、「レコーディングでアンプなんかほとんど使わないですから。ディストーションをかける時だけアンプを使いますけど。あ、でも、ヘタしたらディストーションを使う時でもラインだな」と語っています。
なぜラインで良い音になったのか
本人が挙げる要因は3つです。ひとつはコンソール自体の能率が良かったこと。ふたつめはアナログレコーディングであったこと。そしてもうひとつが、録音場所である六本木のソニーのスタジオにあったDIがスタジオの自家製で、音抜けが良かったことです。
EQについても事情が語られています。「当時はEQもいじれるポイントが少なかったから、いつも決まったEQセッティングになる。そうするとああいう音になるんですよね」。アンプのセッティングが分からずシュガー・ベイブ時代には出せなかった音が、卓直だと分かりやすかったのだといいます。
ライブのライン出しは「苦肉の策」から始まった
そもそもラインという発想は、ステージ側の事情から生まれたものでした。当時は4トン車1台に楽器とPAを詰め込んでツアーを回っていて、北海道厚生年金会館ほどの規模になるとPAのウーファーが片側4発では2階まで音が届かない。そこでメンバーで話し合い、ドラムとピアノ以外をすべてラインで出すことにしたのだといいます。モニターはすべて転がしで賄い、結果としてPA全体が巨大なステレオセットとして機能し、音量を稼ぐことができた。
当時そんなことをしている人はいなかったのでは、という問いに「いないですよ、だって苦肉の策ですもの」と本人は笑いますが、その方式で良い音が出たことから、スタジオでもラインで出したらどうなるかという発想につながったと説明しています。
ほかの楽曲でのライン録り
『FOR YOU』収録の「LOVE TALKIN'(Honey It's You)」については、「コンパクトエフェクターのオーバードライブだけ通して、ライン録りです」と明かしています。竹内まりや「プラスティック・ラヴ」でもブラウンのテレキャスターを使用し、こちらもライン録り。あの印象的なギターソロも山下自身の演奏で、「時間がなかったので自分で弾いた」もの。本人はそのソロについて「あれこそがレジー・ヤングですね」と、影響源の名前を挙げています。
カッティングはどう作られているか
「カッティング一筋、50年です」。2025年のインタビューで本人はそう表現しました。ではその技術は、どこから来ているのか。
出発点はドラムだった
山下達郎は中学のブラスバンドでドラムをやっていて、アマチュアバンドでもずっとドラマーでした。本格的にギターを弾くようになったのはシュガー・ベイブを始めるときで、理由は「ドラムでリードボーカルじゃかっこ悪いかなと思って」。コードはあまり知らず、リードも弾けない。それでも「カッティングなら何とかなるかな」と考えたのが出発点です。
本人は、この経歴がタイムの取り方に表れていると語っています。
もともとパーカッションをやっていたので、タイムの取り方が打楽器的なんですよね。
打楽器としてのギターの側面を大事にしているのか、という問いには、こう続けています。
そうです。特にダンスミュージックはコードを打楽器として使って、それをちょっとスネアの後ろに入れないとダメとか、そういうのがあるんですけど、パーカッションをやってきたおかげで、僕はそういうポリリズム的なところにうるさいんです(笑)。
ダンスミュージックでは、コードを打楽器として使い、スネアのわずかに後ろに入れる。本人の説明からは、機材だけでなく、この時間感覚も達郎サウンドを形づくっていることがうかがえます。
聴いてきたギタリスト
高校時代からR&Bを好み、一番聴いたのはジェームス・ブラウンのバンドのジミー・ノーレンやキャットフィッシュ・コリンズ、そしてMG'sのスティーヴ・クロッパーだったといいます。クロッパーについては「『Melting Pot』のカッティングとかを練習しました」と具体的な曲名を挙げています。
リードプレイの面で影響を受けたのは、エディ・ヒントン、ジミー・ジョンソン、そして「一番好き」と語り、「僕が20代で一番勉強したのはこの人かな」とも振り返るレジー・ヤング。ニューヨークでスタッフのメンバーとして活躍したコーネル・デュプリーの名前も挙がります。デュプリーについては、「プラスティック・ラヴ」のソロを振り返る中で「コーネル・デュプリーも音数は少ないですし」とも述べています。
弦高と、理想のトーン
弦高については時期によって差があります。ギター・マガジンの2020年の記事はカッティング主体のためかなり低く調整されていると記していますが、2025年のインタビューで本人は「今はそうでもないけど、昔はすごく下がってました。よくこれで弾けるなって人から言われたほどですね」と振り返り、「上のほうだと弦がこすれてソロが弾けませんでした」と続けています。
理想のギターの音を尋ねられたときの答えは、周波数でした。「5kHzと10kHzがちょっと上がっていて、300Hzがちょっと下がっている」。
エフェクターについては、こう語っています。「僕はエフェクターには興味がないんですけど、使う時はギターの音を鈍らせたい時なんです。アンサンブルの中で、茶色のテレキャスだと音が勝ち過ぎちゃうんですよ」。音を足すためではなく、勝ちすぎる音を抑えるために使う、という説明です。
達郎サウンドに近づくために、本人の発言と取材記録から読み取れる条件
同じ機材を揃えれば同じ音が出るわけではありません。ただ、本人の発言と取材記録からは、方向性を合わせるための条件をいくつか具体的に取り出すことができます。以下は、この記事で紹介した一次情報を整理し直したものです。
ピックアップはフロントかセンター。リア単独のポジションは使わない。センターポジションの「シャリーン」という響きが、本人が好きだと明言している音
ボリュームもトーンも常時フル。曲ごとに変えるのはピックアップの位置だけ
指板Rはフラット寄り。本人はメインのテレキャスターの特徴として「指板のRが緩い」ことを挙げている
弦は.011もしくは.010からのセット(2020年時点のギター・マガジンの記録)
レコーディングは基本的にアンプを使わず、ライン直で録るのが本人のやり方(歪ませるときはアンプを使うこともある)
本人が理想として挙げた音は、5kHzと10kHzが少し上がり、300Hzが少し下がったバランス
ライブのコーラスはBOSS CE-3で、RATE 10時、DEPTH 11時(2022年のツアー・リハーサル時点)
ダンスミュージックでは、コードを打楽器として扱い、スネアのわずかに後ろに入れる
本人がテレキャスターについて語った言葉も参考になります。魅力を問われて挙げたのは「それはもう、シンプルさでしょう。どんな人でも弾けます」。アマチュアの人に最初に何を買えばいいか聞かれたら「もちろんテレキャス」と答えるとも述べています。プロならカスタムギターを使う人もいるが「僕はまったくそういう気にならない。テレキャスでいいじゃん、って思います」。
なお、2025年のインタビューでは、当時の新製品だったFender American Professional Classic Telecasterを試奏し、「指板のRが緩くてフラットだから、僕の茶色のにすごく近いですね。なのでとても弾きやすいです」と評しています。同モデルの指板Rは、フェンダー公式の製品情報によると9.5インチです。
中古で同系統のギターを探すときの見方
本記事では、実測にもとづく相場レンジを掲載していません。価格の代わりに、状態を見るときの判断材料を示します。
1970年代後半のテレキャスターを見るとき
山下達郎の個体は1978年製で、ホワイト・アッシュ・ボディにメイプルネック、ローズウッド指板という構成です。同じ構成を狙うなら、指板材とボディ材が出品情報に明示されているかを確認してください。
重量も見ておきたい項目です。本人はこの個体について「あと、重いんですよ。こんな重いテレキャス、他に知らないですね」と語っており、同じ年代でも個体によって差が出る部分だとうかがえます。可能なら実際に持ってみること、通販なら重量の記載があるかを確認しておくと安心です。
なお、この個体は本人が「残ってるのは木だけ」と語るほど部品が交換されていて、それでも音は変わっていないと述べています。オリジナルパーツが揃っていることと、良い音がすることは別の話だという実例として受け取れます。
Chet Atkins SST・Guild D-50・Gibson J-50を見るとき
Chet Atkins SSTは2006年に生産を終えているため、基本的に中古での入手になります。山下の3本だけを見ても、ヘッド形状、ダミーホールの有無、コントロールの配置が個体ごとに異なるので、どの仕様の個体かを写真で確認してください。山下の1991年製と1990年製も、内部ピエゾのバランスが悪いという理由でマイク部分だけを新品に交換しています。内蔵ピックアップを備えたモデルなので、試奏時には出力とバランスを確認しておきたいところです。
Guild D-50について記事中で触れたとおり、山下の1967年製はボディが割れてしまい、取材時には1984年製が用意されていました。長年使われた個体でボディが割れることは実際に起こります。中古で探す際は、トップの割れや補修跡、ブリッジ周辺の浮きを優先して確認してください。
Gibson J-50は、山下の個体でもブリッジ・サドルが木製アジャスタブルから牛骨へ、ペグがクルーソンからグローバーへ交換されています。この年代の個体を探すなら、サドルやペグが当時のままかどうかを出品情報で確認したうえで、オリジナル性と演奏性のどちらを優先するかを先に決めておくと判断が早くなります。
よくある質問
山下達郎のメインギターは何ですか
ブラウンのFender Telecasterです。本人はフェンダーの公式メディアのインタビューで1978年製と述べており、1980年に友人から5万円で譲り受けています。フェンダーでのカラー名はウォルナットにあたるとギター・マガジンは記しています。
年式は1978年製ですか、1978〜80年製ですか
出典によって書き方が異なります。ギター・マガジンは1978〜80年製と幅を持たせた表記を用いていますが、2025年のフェンダー公式メディアのインタビューでは本人が「1978年製」と明言しています。本記事では本人の発言を優先しました。
どのピックアップ・ポジションを使っていますか
フロントとセンターのみで、リア単独のポジションは使いません。本人は「リアを使ったことは人生で一度もないです」と述べています。ボリュームとトーンは常にフルで、曲によって変えるのはピックアップの位置だけとのことです。
レコーディングではアンプを使わないのですか
本人は「ライン直で録っています」「ずっとそうです」と語り、後編では「レコーディングでアンプなんかほとんど使わないですから」と述べています。歪ませるときはアンプを使うこともあるが、それでもラインで済ませる場合があるという説明です。「SPARKLE」はDIを通した卓直とEQのみで録音されました。
使用弦は何ですか
ギター・マガジンの2020年の記事によれば、メインのテレキャスターには.011もしくは.010からのセットが張られていました。エレアコのGibson Chet Atkins SSTでは、1991年製に.010〜.047、半音下げ用の1990年製に.012〜.053が使われていました(2022年のツアー・リハーサル取材時点)。
まとめ
山下達郎のギターの中心にあるのは、1980年に5万円で手に入れた1978年製のFender Telecasterです。ペグからピックアップまで交換され尽くし、本人いわく「残ってるのは木だけ」。それでも音は当時のままだといいます。
そして、「SPARKLE」のカッティングの音を作っているのはアンプではありませんでした。レコーディングはライン直、「SPARKLE」はDIを通した卓直とEQのみ。2022年の取材時点では、ライブでもエレキの9割近くがプリアンプ経由のライン出力で、コーラスは「SPARKLE」を弾く時以外かけっぱなしです。メイン・アンプは、2010年から使われているSHINOSの山下モデルでした。
機材の固有名詞を追いかけるより手応えがあるのは、おそらく本人が語った条件のほうです。ピックアップはフロントかセンター、ボリュームもトーンもフル、理想は5kHzと10kHzが少し上がり300Hzが少し下がった音。そしてダンスミュージックでは、コードを打楽器として扱い、スネアのわずかに後ろに入れる。本人が「カッティング一筋、50年です」と語る年月には、ブラスバンドやアマチュアバンドでドラムを叩いてきた人の時間感覚が生きているように見えます。
本記事は個人の使用経験に基づく情報です。楽器・機材の使用に際しては、取扱説明書や専門家の指示に従い、安全にご注意ください。
サウンドマニア編集部
楽器の購入ガイドや基礎知識を発信するサウンドマニア編集部です。ピアノ・ギターをはじめとした楽器選びや、メンテナンス・演奏に関する実用的な情報をわかりやすくお届けします。


